- 不定形五七調 長歌 ―― 祈呪歌(ハフリゴト)/物身(モノザネ)と霊魂によせて
- 》01「深森ノ鎮魂曲」 ―― はるかなる深森の記憶…
- 》02「刀身」 ―― 青鈍色の風切羽…
- 》03「神無月叙情」 ―― 秋風はもみずる袖を…
- 》04「夜の旅幻想」 ―― 霧も深き山奥の…
- 》05「あじさい」 ―― 緑も深き木下闇に…
- 》06「金木犀」 ―― 秋の雨は降りしきる…
和風*異世界ファンタジー漫画『八衢のアルス・マグナ』において、しばしば引用という形で登場する和歌集として設定
(注意:現実に存在する和歌集ではありません)
藤原定家がその著書『毎月抄』において、和歌十体について議論しています。その中に、「鬼拉体(キラツタイ)」という歌体の事が触れられています。 一般に「強い調子の歌」という風に訳注がついておりますが、その実、それほどつまびらかにされている訳ではないようです。
この「鬼拉体(キラツタイ)」は、歌体の伝統としては長大な部類に属するらしく、 万葉集の頃に既に見られるということです。代表的なものは、額田王の三輪山の和歌が挙げられています。
三輪山をしかも隠すか雲だにも情(こころ)あらなもかくさふべしや
昭和の歌人・山中智恵子が、この「鬼拉体(キラツタイ)」について、『三輪山伝承』の中で次のような示唆を述べています:
……稲種をもち伝えつつ、大和びとは水鳥のいる水沼(みぬま)を都とした。 池に沼にみささぎの周濠に青い天は反映し、その水のゆらめきにわだつみの心は現存していた。 とすれば、日本の詩歌のすぐれたものの必ずもつ、鎮魂のしらべと、鬼拉惝怳体のみなもとが、 三輪山をめぐる土と水と草木のこころにあるのではなかろうか。それは草木も言問う日の詩想であり、 鎮魂とはものの思いのかぎりをつくして、とおくゆくものの心を、期してここに待つものの心〈恋の座〉ではなかろうか。……
――『三輪山伝承』山中智恵子著、1994.1.25発行、ISBN4-314-00643-9、紀伊國屋書店
“鬼拉惝怳体”(キラツ-ショウコウタイ)―― 使われている漢字から意味を推し量るに、「呆然とする/気を抜かれる」。 しかるに、鬼拉惝怳体とは、魂を揺さぶる類の表現であろうと推測されます。
「鬼拉体(キラツタイ)」という歌体を必要としたのは、《鬼》をもひしぐ烈々たるしらべの歌でなければ、鎮めがたいほどに荒ぶる「悲壮」だったのではないか。 この「鬼拉体(キラツタイ)」にすぐれた詩歌としては、宮沢賢治の作品「春と修羅」という風に感じられます。
§総目次§
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深森の帝國