深森の帝國§総目次 §物語ノ時空 〉葉影和歌集

葉影和歌集

三十一文字 短歌 ―― 枝葉闌曲
雑の章……時事、思想、歌幻想
春の章……春景
夏の章……夏景
秋の章……秋景
冬の章……冬景
恋の章……相聞歌、物語ノ歌
不定形五七調 長歌 ―― 祈呪歌(ハフリゴト)/物身(モノザネ)と霊魂によせて
》01「深森ノ鎮魂曲」 ―― はるかなる深森の記憶…
》02「刀身」 ―― 青鈍色の風切羽…
》03「神無月叙情」 ―― 秋風はもみずる袖を…
》04「夜の旅幻想」 ―― 霧も深き山奥の…
》05「あじさい」 ―― 緑も深き木下闇に…
不定形五七調 長歌 ―― 憂偲歌(シノビゴト)/悠久をさまよい、さすらえる霊魂によせて
》01「青嵐」 ―― せり上がる日輪の軌道…
》02「道」 ―― 凍れる雲の海を…
》03「カムナビ」 ―― 命を享けし現葉の…
》04「遠き産土」 ―― 大地震揺りて津波寄すれば…
》05「水のいざない」 ―― 黒水流れる深い河…
不定形五七調 長歌 ―― 伝承歌(ツタエゴト)/時を経て、なお鎮まらぬ神々によせて
》01「神ノ火」 ―― 空にあまねく押し寄せ群れて…
》02「時ノ神楽」 ―― 天にあまねく地にあまねく…
》03「神々の身土」 ―― 日の影のゆりくるきしべ…
》04「花の影を慕いて」 ―― 緑の岸辺、黒のわだつみ…
》05「冬至」 ―― ひととせの終わりの太陽が…

付記 ―― 和歌・鬼拉体 ―― 《鬼》をひしぐ鎮魂のしらべ

藤原定家がその著書『毎月抄』において、和歌十体について議論しています。 その中に、「鬼拉体(キラツタイ)」という歌体の事が触れられています。 一般に「強い調子の歌」という風に訳注がついておりますが、その実、 それほどつまびらかにされている訳ではないようです^^;

ただこの「鬼拉体(キラツタイ)」は、歌体の伝統としては長大な部類に属するらしく、 万葉集の頃に既に見られるということです。代表的なものは、額田王の三輪山の和歌が挙げられています。

――三輪山をしかも隠すか雲だにも情(こころ)あらなもかくさふべしや――

―― 昭和の歌人・山中智恵子が、 この「鬼拉体(キラツタイ)」について、『三輪山伝承』の中で次のような示唆を述べています:

……稲種をもち伝えつつ、大和びとは水鳥のいる水沼(みぬま)を都とした。 池に沼にみささぎの周濠に青い天は反映し、その水のゆらめきにわだつみの心は現存していた。 とすれば、日本の詩歌のすぐれたものの必ずもつ、鎮魂のしらべと、鬼拉惝怳体のみなもとが、 三輪山をめぐる土と水と草木のこころにあるのではなかろうか。それは草木も言問う日の詩想であり、 鎮魂とはものの思いのかぎりをつくして、とおくゆくものの心を、期してここに待つものの心〈恋の座〉ではなかろうか。……
――『三輪山伝承』山中智恵子著、1994.1.25発行、ISBN4-314-00643-9、紀伊國屋書店

“鬼拉惝怳体”(キラツ-ショウコウタイ)―― 使われている漢字から意味を推し量るに、「呆然とする/気を抜かれる」。 しかるに、鬼拉惝怳体とは、魂を揺さぶる類の表現であろうと推測されます。

「鬼拉体(キラツタイ)」という歌体を必要としたのは、 《鬼》をもひしぐ烈々たるしらべの歌でなければ、鎮めがたいほどに荒ぶる「悲壮」であったのです。 この「鬼拉体(キラツタイ)」にすぐれた詩歌としては、宮沢賢治の作品 「春と修羅」 が挙げられると思われます。


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