深森の帝國§総目次 §物語ノ時空葉影和歌集 〉「水のいざない」

水のいざない――白き虹の幻想

黒水(こくすい)流れる 深い河、
ゆるゆる行くは 月の舟。

瑠璃光(るりこう)は、
此岸(しがん)と彼岸を 横切り照らし、
何処か遠くで 鳥が啼く。

河水(かわみず)洗う 岸辺には、
透明な藍色帯びて 揺れる草。

水晶クラスタ 群れて光り、
散乱反射の 林が揺れて――

黒く深く 河は流れ、
静かにたゆたう 月の舟。

深い河は なお黒く、
揺らぎ続ける 波の上、
ゆるゆる行くは 月の舟。

瑠璃光満ちる 虚空の間(あいだ)に、
かかる虹よ、白き虹。

《無限》よ 《無限》。
慈悲もて 有限の者に一瞥を与えよ。
我もまた寂しさと悲しみの奥に 汝を見ようとしたのだ。

何処か遠くで 滝が鳴る。
遠くを渡る 鳥の声。
何処か遠くで 滝が鳴る。

虚空の円転、渦の流れ、
時という名の 光と影が、
荒らぶる命の 門(かど)を成す――

深くたゆたう 波の上、
ゆるゆる行くは 月の舟、
刻める水は いよいよ速く。

水霊(みづち)の流れは 行方知らずも、
やがて 五百津(いおつ)の星光る。

憂偲歌(シノビゴト)/葉影和歌集

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