深森の帝國§総目次 §物語ノ時空.葉影和歌集 〉「冬至」

冬至――朔旦冬至に寄す

ひととせの終わりの太陽が 弱々しく沈み
やがて押し迫る 夜の深淵。

冬至の闇は 冷たく 長く
時の鐘 早や 凍て付きぬ。

風が止み 冬 極まれり 冷涼天
ああ かの 永遠の静寂。

木の実と成り果てた小さき太陽を
闇の中に 捧げ持ち
返り見すれば 形代(かたしろ)のみか 遠つ神。

時ならぬ 年の瀬に
人ならぬ その面(おも)に 劫初の笑みを湛えて立つものよ。

始まりと終わりが出逢う この十字路
時を奪い
また与えるのは この交差。

冬至の闇は 冷たく 長く
時の鐘 ただ 沈黙す。

時ならぬ 年の瀬
人ならぬ その面(おも)。

劫初は 冬至を巡り
そして長き夜の 冷涼の彼方 終極を示し
始まりと終わりの 《無限》の交差
十字路の中心に 時ならぬ形霊(かたち)が 回転す。

なおも 不動の 冷涼天
太陽も 月も 既に無く
ああ かの永遠の静寂。

冬至の闇は 冷たく 長く
天を埋めるは 基底の量子。

細々と 一ツ星のごと 火を灯し
闇の中に 掲げ持ち
返り見すれば 形代(かたしろ)のみか 遠つ神。

時ならぬ 年の瀬
人ならぬ その面(おも)。

形霊(かたち)――形代(かたしろ)
此処は 《無限》の 交差点
花の影こそ 立ち出でれ。

冬至の闇 幽邃(ゆうすい)の十字路を 時知らず
劫初 終極 界(カイ)を湛えて立つものよ。

遥かに仰げば 冷涼天
その彼方の 宇宙の 静寂。

流され星の欠片は やがて
朧(おぼろ)に淡い 東雲(しののめ)となり
しかし その励起は ひたむきに ひととせの始まりを兆し
新たな時の鐘を 新たに鳴らす。

解説

「朔旦冬至(さくたんとうじ)」と呼ばれる特別な冬至がある。

これは、新月と冬至が重なる年の冬至のことで、その到来は、19年に1度のみ。古来、冬至は極限まで弱まった太陽が復活する日、すなわち「復活の日」とされた。

太陽と月の復活の日が重なる朔旦冬至は、非常におめでたい日だとされ、朝廷では盛大な祝宴を催したと言われている。


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