|青鈍の空よりしきりに降りしきる真白の雪の春日に道行く
あおにびの-そらよりしきりに-ふりしきる-ましろのゆきの-かすがにみちゆく
|嵐来て雨風乱る空になお春とし聞けば咲くやこの花
あらしきて-あめかぜみだる-そらになお-はるとしきけば-さくやこのはな
|淡雪の開けば青空梅が花濃きも薄きももゆら耀う
あわゆきの-ひらけばあおぞら-うめがはな-こきもうすきも-もゆらかがよう
|幾千の冬の枯れ草渦を巻き春雨に濡れ朽ち行くものよ
いくせんの-ふゆのかれくさ-うづをまき-はるさめにぬれ-くちゆくものよ
|一面の菜の花黄色柔らかに小雨に濡れて匂い輝く
いちめんの-なのはなきいろ-やはらかに-こさめにぬれて-においかがやく
|未だ見ぬ春は巡れり霞立ちさらさら明かし菜種梅雨降る
いまだみぬ-はるはめぐれり-かすみだち-さらさらあかし-なたねつゆふる
|幽き春徘徊れば狂人の水面に映る妖しき面影
おくふかき-はるもとほれば-きょうじんの-みなもにうつる-けしきおもかげ
|君見ずや浅く積む雪振り払う椿の花の赤さ熱さを
きみみずや-あさくつむゆき-ふりはらう-つばきのはなの-あかさあつさを
|蒼天に嵐来たれり群雲の乱るる春の中の淋しさ
そうてんに-あらしきたれり-むらくもの-みだるるはるの-なかのさびしさ
|蒼明の空を渡るや花吹雪春や春とて頬は濡れ行き
そうみょうの-そらをわたるや-はなふぶき-はるやはるとて-ほおはぬれゆき
|褐色の海渡り行く春一番また緑染む早春の岸
かちいろの-うみわたりゆく-はるいちばん-またみどりそむ-そうしゅんのきし
|散る際に明らみ映える楠の老いらく春を道にし思ゆ
ちるきわに-あからみはえる-くすのきの-おいらくはるを-みちにしおぼゆ
|月闌けて山は雪解け轟轟ときつく捩れる練絹の水
つきたけて-やまはゆきどけ-ごうごうと-きつくねじれる-ねりぎぬのみず
|翼駆る白の一列北帰行無限に遠き空の彼方に
つばさかる-しろのいちれつ-ほつきこう-むげんにとおき-そらのかなたに
|地裂けて激く地震ル時区切て春の初めの偲びごとせむ
つちさけて-しげくナヰフル-ときくぎて-はるのはじめの-しのびごとせむ
|遠い日の巌の下に芽吹き萌え幸か不幸か石割桜
とおいひの-いわおのもとに-めぶきもえ-こうかふこうか-いしわりざくら
|波を切り季節分けたり春一番海より来たる神の如くに
なみをきり-きせつわけたり-はるいちばん-うみよりきたる-かみのごとくに
|激しくも降り積む雪か惑へども暦の上の春は近付く
はげしくも-ふりつむゆきか-まどへども-こよみのうえの-はるはちかづく
|斑雪淡く幽けく透き通り地球の空を見れば悲しも
はだれゆき-あわくかそけく-すきとおり-ちきゅうのそらを-みればかなしも
|花風の眩き春を流離いて緑の香野に添えず哀しむ
はなかぜの-まばゆきはるを-さすらいて-みどりのかぐのに-そえずかなしむ
|花吹雪花ぞ散りける千早振ル神も舞い散る嵐の中に
はなふぶき-はなぞちりける-チハヤフル-カミもまいちる-あらしのなかに
|春浅く凍て付く空に疾き風に時化の海にこそ思へかの日
はるあさく-いてつくそらに-ときかぜに-しけのうみにこそ-おもへ-かのひ
|春先の雨降りしきる土の底小さき緑の芽吹ありなむ
はるさきの-あめふりしきる-つちのそこ-ちいさきみどりの-めぶきありなむ
|春の宵桜の花を雨し風と雲とも移り行く季節
はるのよい-さくらのはなを-あめふらし-かぜとくもとも-うつりゆくとき
|春彼岸野辺に匂へる梅が花枝の影もて青空を絶つ
はるひがん-のべににほへる-うめがはな-えだのかげもて-あおぞらをたつ
|春めきて夢見し袖の曙に朧に浮ぶ緑き芽の影
はるめきて-ゆめみしそでの-あけぼのに-おぼろにうかぶ-あおきめのかげ
|春や春髪ふり乱し駆け抜ける涼しき野辺の草の青さよ
はるやはる-かみふりみだし-かけぬける-すずしきのべの-くさのあおさよ
|春や春残雪白し山碧し霞か雲か花の祝祭
はるやはる-ざんせつしろし-やまあおし-かすみかくもか-はなのしゅくさい
|人を呼び人を食らうか真白なる神々の座に春裂く雪崩
ひとをよび-ひとをくらうか-ましろなる-かみがみのざに-はるさくなだれ
|日は浅く真昼なれども影長く春は名のみの風の寒さや《本歌取り/『早春賦』》
ひはあさく-まひるなれども-かげながく-はるはなのみの-かぜのさむさや
|日は高く千早佐保姫比礼を振り嵐は猛る緑の丘に
ひはたかく-ちはや-さほひめ-ひれをふり-あらしはたける-みどりのおかに
|見渡せば今日も昨日も雪の空凍れる湖を解く風いずこ《本歌取り/『早春賦』》
みわたせば-きょうもきのうも-ゆきのそら-こおれるうみを-とくかぜいずこ
|雪解けて土の香りが立ち昇る緑萌え行く春の激しさ
ゆきとけて-つちのかおりが-たちのぼる-みどりもえゆく-はるのはげしさ
|美き人は久しく桜下の身と成れり化して憂傷ぞ花と散らざる
よきひとは-ひさしくおうかの-みとなれり-かしてうらみぞ-はなとちらざる
|若人よ春の旅立ち遠き空名も無き道をひたむきに行け
わこうどよ-はるのたびだち-とおきそら-なもなきみちを-ひたむきにゆけ