深森の帝國§総目次 §物語ノ時空.葉影和歌集 〉「深森ノ鎮魂曲」

深森ノ鎮魂曲 ―― グリーン・エフェメラル

はるかなる 深森(ミモロ)の記憶、
木漏れ陽のめぐりうつろう闇をうつして、
たとえようもなく、なつかしく、
ほのぐらく、あおく ふかく よどむもの。

ほのおのうみよ――みどりのほのおよ
果てしなき木下闇に 冷えさびて。

白き あらけき 滝つ瀬に、
あかとき桜は ほの見えて。

天照(アマテル)ゆえに 愛(かな)しむか――
威烈(タケハヤ)ゆえに 畏(おそ)れるか――
およそ その名は 両面宿儺。

昼なお隠(こも)る 闇(ヨミ)の森、
さやげる瀬織に しのぶなり、
しげくも透(とお)る いにしえを。

瀬を早み、
うねり荒らぶる 時空(にわ)の渦巻き、

甕星(ミカボシ)の いかれる そらに、
おもく たわめる 水霊(みずち)の流れ。

みどりのうみ、
ときじくの 幽(おくふか)き魔境なす 森の海よ。

命をうけし うつしよに、
たまゆらの 光と影がふりしきる。

生(イキ)は死(シニ)より 悲しきものを。

汝(なんじ)、
くらきを さまよう者よ。

清ら月は 道野辺に照り。

解説

物語の序詩として掲載予定でしたが種々の理由により却下、別途この頁に掲載しました。

認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する
――ヘルダーリン(ドイツ詩人)

グリーン・エフェメラル詩想 ―― 緑白(あおじろ)い宇宙観

「坂下宿」で引用していた、道元『正法眼蔵』の私的解釈を通じて、解説してみるものです。

『正法眼蔵』のエッセンスが濃密に詰まっている…と感じているのが、 山頭火の以下の俳句であります。

生(しょう)を明(あき)らめ死を明らむるは仏家一大事の因縁なり(修証義)
――生死(しょうじ)の中の雪ふりしきる――(山頭火)

宮澤賢治の以下の和歌にも、「グリーン・エフェメラル」というものの緑白(あおじろ)さが よく表現されているように感じています。 なにげに伝統的和歌の範囲も拡張しているらしいのが、また興味深いと思われます。

――そらに居てみどりのほのほかなしむと地球のひとのしるやしらむや――(宮澤賢治)

昔の私製和歌ですが、当詩歌作品「深森の鎮魂曲」の元となった歌ですので、以下に紹介します:

――電場磁場あやと織り成すその果てにプラズマ燃える地球磁気圏――(私製)

これは読んで分かるように、オーロラ現象を歌ったものです。 「深森の鎮魂曲」は、この歌の発展になります。

オーロラは、大気中の原子がプラズマ粒子によって励起され、発光する光の集合体です:

よく見られるのは、希薄な酸素原子が発する緑の炎だそうです。 原子核の周りに不確定性の渦を巻いて回転し続ける電子軌道、その軌道の高揚の命はあまりにも短く、 その短い一瞬が、あのような美しい緑の…緑白(あおじろ)い光を生み出す。

そして、次にどの酸素原子の軌道が燃えるのかは、まったくの未知の領域にあります。 過去にどの原子の軌道が燃えたのかは分かっている――しかも、その記憶は、 時の経過と共にだんだん薄れてゆくものです。 そして、未来にどの原子の軌道が燃えるのかは、分からない。

…「今」という時空は、厳粛なる運命の〈遭遇〉で出来ている…

地球の生命を支える酸素が出す、一瞬の緑の炎。緑のアラベスク。 この地球においては、生の贈与も、死の贈与も、酸素の役割… 生命に欠かせない水もまた、そうです。水は、水素と酸素の化合物です。

グリーン・エフェメラル…たまゆらの、プラズマの火花。

この現し世に、たまさかに映し出されて輝く、一期一会の命の息吹き。

個人、個人、というローカルな地球人(アーシアン)の〈場〉も、そのようなものかも知れません。 泉の底のエリキシル…と仮に名づけてみた、そういう、目を開けていられないほどのまばゆい永遠の光に貫かれて、 たまさかのこの現し世に、「地球」という名を授かった深い闇の中に、「命」という名前のオーロラを映し出す。

「宇宙」という事象もまた、時空マトリックスの闇の中にほのかに輝く「みどりのうみ」、グリーン・エフェメラルに他ならず。 電場と磁場の中を揺らぎ続ける、無数の星々の不確定性潮流――重力場を作りながら巡り続ける生と死の渦巻き、巨大な幻影の中の乱舞。

当サイトの言葉でイメージングするなら、「みどりのうみ」であり、「深森の鎮魂曲」です。


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