深森の帝國§総目次 §物語ノ時空葉影和歌集 〉「枝葉闌曲・冬」

枝葉闌曲/冬の章

|あらたまの清き流れに安らへり振り放け見れば富士の高嶺か
あらたまの-きよきながれに-やすらへり-ふりさけみれば-ふじのたかねか

|荒れ狂う深冬の山に蹲り贄を求めて牙剥けるもの
あれくるう-みふゆのやまに-うづくまり-にへをもとめて-きばむけるもの

|息詰まるほどに荒らぶる豪雪よ山行く人の命あえなし
いきづまる-ほどにあらぶる-ごうせつよ-やまゆくひとの-いのちあえなし

|海上を渡る流氷照る波を起る波を茫茫覆へり
うなかみを-わたるりゅうひょう-てるなみを-むくるなみを-ぼうぼうおおへり

|風は凍み川は冷え寂び数千のシガ流れたり朝の静寂に
かぜはしみ-かわはひえさび-すうせんの-シガながれたり-あさのしじまに(「シガ」=川の流氷。久慈川に稀に現れる)

|風吹けば冬の枯草うち靡きさやぐ野中に人立ち尽くす
かぜふけば-ふゆのかれくさ-うちなびき-さやぐのなかに-ひとたちつくす

|彼の国や遠き産土あくがるる鶴鳴き渡る遠き故郷
かのくにや-とおき-うぶすな-あくがるる-たづ-なきわたる-とおきふるさと

|霜降りて木枯らし渡る冬の空妖しく延びる有明の月
しもふりて-こがらしわたる-ふゆのそら-あやしくのびる-ありあけのつき

|寂静の緑の焔を保ち行く冬の常盤木或いは哀しみ
じゃくじょうの-みどりのほのおを-たもちゆく-ふゆのときわぎ-あるいはかなしみ

|白波は剣が峰なり冬の海底冷え風も雲も打ち責む
しらなみは-つるぎがみねなり-ふゆのうみ-そこびえかぜも-くももうちせむ

|深深と雪は降り積む枝の上に枝の下にも雪は降り積む
しんしんと-ゆきはふりつむ-えだのうえに-えだのしたにも-ゆきはふりつむ

|鈴の音の星夜常盤の色冴えて凍てる水面は鏡となれり
すずのねの-せいや・ときわの-いろさえて-いてるみなもは-かがみとなれり

|旅人の眼差し渡る遠き国凍てつく町の影の長さや
たびびとの-まなざしわたる-とおきくに-いてつくまちの-かげのながさや

|時五更臥所の窓は凍て付きぬ耳を澄ませば氷の足音
ときごこう-ふしどのまどは-いてつきぬ-みみをすませば-こおりのあしおと

|年の瀬の夜を彩る三ツ星を遠く揺るがし鐘は鳴りゆく
としのせの-よるをいろどる-みツぼしを-とおくゆるがし-かねはなりゆく

|冷え寂びる長き夕べの雪野辺を白き衣の人が過ぎ行く
ひえさびる-ながきゆうべの-ゆきのべを-しろきころもの-ひとがすぎゆく

|冬極み空冴え渡る寒の夜仰ぎ見るなり六連の星を
ふゆきわみ-そらさえわたる-かんのよる-あおぎみるなり-むつらのほしを

|冬花火見納めせむと手を拍てば瞬く星と炎の宴
ふゆはなび-みおさめせむと-てをうてば-またたくほしと-ほのおのうたげ

|冬真昼なお陽は浅し木洩れ陽の降り敷く野辺に光る枯れ草
ふゆまひる-なおひはあさし-こもれびの-ふりしくのべに-ひかるかれくさ

|舞い降りる小さき雪の一片に人読みたまえ天の御言を
まいおりる-ちいさきゆきの-ひとひらに-ひとよみたまえ-あめのみことを

|山中に凍れる大滝巡り会い驚しむは之れ神姿かと
やまなかに-こおれるおおたき-めぐりあい-あやしむはこれ-かみすがたかと

|山脈に神は来にけり雪之響身に凍み透る冬は来にけり
やまなみに-かみはきにけり-ゆきのゆら-みにしみとおる-ふゆはきにけり

|雪国のその名にし負う陸奥の夜の静寂を裂くや雪折
ゆきぐにの-そのなにしおう-みちのくの-よるのしじまを-さくやゆきおれ

|雪の中南の国のその色を温温しと見ゆ蜜柑小さき
ゆきのなか-みなみのくにの-そのいろを-ぬくぬくしとみゆ-みかんちひさき

|雪深し冬の終わりの夕映えを夢見る如く渡る鳥影
ゆきふかし-ふゆのおわりの-ゆうばえを-ゆめみるごとく-わたるとりかげ

|雪闇に羆射止めし天ツ矢は静かに青く燃えて舞うなり
ゆきやみに-ヒグマいとめし-あまツやは-しづかにあおく-もえてまうなり

|行く星の軌跡求めて見上ぐ夜微かに聞くなり霜降る音を
ゆくほしの-きせきもとめて-みあぐよる-かすかにきくなり-しもふるおとを

|夜明けがた東雲浅き薔薇色の空に鳥舞い木枯らしぞ吹く
よあけがた-しののめあさき-ばらいろの-そらにとりまい-こがらしぞふく

|凛として面を上げて冴ゆる花山茶花梅雨の季節は到れり
りんとして-おもてをあげて-さゆるはな-さざんかつゆの-ときはいたれり

|冷涼の風の吹き敷く越の海波路に立つは冬の色かな
れいりょうの-かぜのふきしく-コシのうみ-なみじにたつは-ふゆのいろかな


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