深森の帝國§総目次 §物語ノ時空葉影和歌集 〉「枝葉闌曲・恋」

枝葉闌曲/恋の章

相聞歌…伊勢の海

禁じられた恋を運命付けられた男女の相聞歌として。 なお、第一の歌以降、男は出征・戦死してこの世に居ない。 最後の歌は、男の幽霊が、依坐(よりまし)の如き存在に歌わせたという設定。

(男)春や春独り佇み世を渡り今こそ惜しむ暁露を
はるやはる-ひとりたたずみ-よをわたり-いまこそおしむ-あかときつゆを

(女)時数え独り寝る夜不知火の海より来たる人を待ちつつ
ときかぞえ-ひとりねるよる-しらぬひの-うみよりきたる-ひとをまちつつ

(女)夜の彼方海の船影見果つればいと遠白き時の虚しさ
よのかなた-うみのふなかげ-みはつれば-いととおしろき-ときのむなしさ

(男)伊勢の海常世の重浪返す波日尽きるその日逢はむとぞ思ふ
いせのうみ-とこよのしきなみ-かへすなみ-ひつきるそのひ-あはむとぞおもふ

相聞歌…七夕の歌垣

七夕の歌垣における、男女の掛け合いとして。七夕説話に裏打ちされた各種の言葉のゲーム。 古代の歌垣においては、男女の歌の勝負という側面もあったと言われている。

(男)天翔る鳥よと見初め思ひ初め乙女我が枝に寄り寝て通れ
あまがける-とりよとみそめ-おもひそめ-おとめわがえに-よりねてとおれ

(女)君我を見初めと云ひ思ひ初めと云ふ松葉に秋の風吹く
きみわれを-みそめといひ-おもひそめ-といふまつばに-あきのかぜふく

(男)松が枝に天の羽衣見ざりせば我が心安からましものを
まつがえに-あめのはごろも-みざりせば-わがこころ-やすからましものを

(女)一筋の風か雲かや松が枝の身に留まらじ消ゆべき露よ
ひとすじの-かぜか-くもかや-まつがえの-みにとどまらじ-きゆべきつゆよ

(男)遠白き永遠の大河も一滴の露に始まり来たれるものぞ
とおしろき-とわのたいがも-いってきの-つゆにはじまり-きたれるものぞ


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