深森の帝國§総目次 §物語ノ時空.葉影和歌集 〉「あじさい」

あじさい ―― 緑の袖の梅雨美人

緑も深き 木下闇に
五月雨そそぐ 降りそそぐ

あやに群ら咲き 彩るものよ
薬玉 薫(くゆ)る かたちして

誰恋うゆえに 赤にや咲くらむ
誰待つゆえに 青にや咲くらむ

色を定めぬ あじさいの
花に宿るは 天の水

涼しき野辺に 五月雨なおも 降りそそぐ
雨だれを 鳴らしつづける 風神雷神
緑の袖の 梅雨美人(つゆ-びじん)

雨上がり はるか青空 虹かかる
あじさいの如くに 色を定めぬ 天の妙(たえ)

解説

アジサイの花は、不思議に人の姿に似ているところがあると感じます。

ところで、アジサイの学名は「Hydrangea」(ヒドランジア/ハイドランジア)、ギリシア語で「水の器」を意味するそうです。

花言葉では「移り気」「冷淡」などといったキーワードが目立ちます。 これは恐らく、アジサイが含む水気や、水そのものの、余りにも滑らかな移ろいや淡泊さを感受した結果としての、 キーワードでは無いかとも思われる所があります。

アジサイには、これといった香りもありませんので、 「香を聞く」という意味では、「無香ゆえの、そっけなさ」といった物も感じられるのかも知れません。 日陰の花、沈黙の花――といった印象も、強いものがありそうです。


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