深森の帝國§総目次 §物語ノ傍流 〉花の影を慕いて.余話(小説版)

花の影を慕いて/余話.「春の事件」前日談…少年と子犬のランデブー

あらすじ&解説

(あらすじ)
少年は、『復活祭』をきっかけに滞在を始めた館の庭園の片隅で、ちっちゃな子犬と遭遇し、すぐに仲良くなった。 だが、館のルールの都合で、無断で動物を飼ってはならない事になっている。 『復活祭』社交シーズンで館に集っている大人たちの目を盗みつつ、ひそかにスタートした少年と子犬の、ささやかな日常の冒険。 館の大人たちにはそれぞれ事情があり、館そのものにも、奇妙な異変が続いていて…!?

(解説)
長編『花の影を慕いて』――「第一章,2.春の事件」パートの前日談です。 『復活祭』の前後の数日間の出来事を、少年&子犬の目線で。子犬は人間の言葉を喋らないので、 ずっと無言のままですが、とても賢い「聞き役&相棒」となっている……筈です。

本編

――『復活祭』当日、午前――

オッス! オイラ、マティ・トッド。今、八歳だよ。もう少ししたら、九歳になるところさ!

ちょっと薄い茶色の髪と、それよりちょっとだけ薄い茶色の目がトレードマークさ! よろしくな! ちなみに、 肖像画を描いて仕事してる運河の画家のオジサンは、『明るい栗色の髪に、明るい茶色の目』と言ってたから、 そっちの方が正確な言い方なのかも知れないね。

自慢じゃ無いけど、地元テンプルトンの町では、ちょっとした有名人(セレブ)なんだぜ。 まあ、どういう意味で有名かは、オイラは基本、これでも慎ましい性格だから、 此処では自慢しないけどね! ローズ・パークの名物オバサンの、カーティスのオバサンが、 あっちこっちで派手に喋りまくってるから、そのうち分かると思うよ。

――え? パパとママはどうしたって?

パパとママは今、海外に出掛けるところなんだ。ホラホラ、おいでよ。

この館、クロフォード伯爵邸ってば、丘の上に建ってる大豪邸なもんだから――

天気はあんまり良くないけど、館の庭園の端からでも、よーく見えるだろ、丘陵の道を行く馬車の群れが。 パパとママは、先頭の馬車に乗ってんだ。

うん、パパとママは、出発前に、クロフォード伯爵へのご挨拶はもう済ませてるよ。 ちなみにクロフォード伯爵は、オイラの伯父さんでもあるんだ(えっへん)。リチャード伯父さんって言うんだよ。 パパとママは、これから二週間から三週間ぐらいの間、不在になるんだけど、戻って来たら紹介するからね。

パパとママは、「シュッチョー」とかいう仕事が入ってて、 町内の他の名士たち(パパは名士の一人なんだぜ、えっへん)と、地元の商会のメンバーたち(10人〜20人くらいかな)と一緒に、 海外の見本市とか、大市場とかを回って来るんだってさ。春には、新商品がたくさん出回るからね。

――で、『復活祭』当日なのに、マティは何で、こんな所に居るのかって?

やーだーなー。聞かないでくれると思ったのに。

パパとママは、『マティは、海外でもすっごく奇天烈な事をやらかす筈だから、用心のために館に預けて行く』って決定しちゃったんだ。 それで、オイラは、お目付け役のじいじと一緒に、この館――クロフォード伯爵邸に置いてかれちゃったんだよ。

――え? 奇天烈な事って何だって? 聞きたい?

うん、良いよ。この間っていうか、昨夜の事なんだけどさ。

地元テンプルトンの町で、恒例の『復活祭』の前夜祭があったんだ。

テンプルトンの商店街を中心にして、大道芸とか、花火とか、前夜祭の楽しい出し物が色々ある訳だが、 オイラは特製の打ち上げ花火を――それも自信タップリの新作を――お披露目しようと計画してたんだ。

ところが、特製の打ち上げ花火が、何でか予定通りに屋根の上の方に打ち上がらなくってさ、 解体予定のコテージの横っ腹に……

イヤイヤ、オイラだって、あそこまで完璧に、まるっと、木っ端微塵に吹っ飛ばす予定じゃ無かったんだぜ!

後で気が付いたんだけどさ、打ち上げのための筒の構造が悪かったらしいんだ。ホラ、よく言う『初歩的なミス』ってヤツさ。 それに燃料のバランスが……おっと、此処から先は研究上の秘密って事で!

ハンプティ・ダンプティに良く似た人影が、頭全体を火事にして、「アチチ!」と叫びながら、 物凄い勢いで運河の方へ走り去って行ったような気がするんだけど。

真夜中だったし、解体前のコテージには誰も居ない筈だし、気のせいだな。『復活祭』には、妙な幽霊も復活してくると言うからね!

で、まあ、パパには余計な仕事を増やしちゃったんで、大真面目に反省中さ。

パパは、海外に出掛ける直前に、大急ぎで解体業者たちを捕まえて (復活祭は休日だからね、職人たちの居場所をつかむには、ちょっとコツが要るんだよ)、 『古いコテージの解体は、一瞬で完了してしまった。休み明け次第、瓦礫搬出の仕事をしてくれ』と依頼し直す羽目になっちゃったからね。

――でもさあ、これって偶然なのかな。

パピィ、お前のお気に入りのお屋敷も、結構スゴイ事になってんじゃん。

此処って、三ヶ月前くらいに急に死んだっていう、ローズ・パークの庭師の――ガミガミ・アントンの自慢の倉庫だけどさ。 本人が死んだからって、倉庫まで、これ程にボロボロに壊されるって……アリなのかよ。

それとも、あの偏屈庭師の頑固ジーサン、プライス判事が言うように、誰かに物凄く怨まれてたって事なのかな。 すっごく不自然な死に方だったんで、改めて再捜査してるって話だし。

まあ、とにかく、倉庫の入り口の部分だけでも、綺麗にしておくからね。

ん? 何だい、パピィ?

――何だか館の方が騒がしいな。

あのキンキン声、鬼婆じゃんか。重大事件、発生らしいな!

パピィ、付いて来るんなら、静かに隠れてるんだぞ。 何と言ってもお前は、館に突然迷い込んで来た、モフモフの毛玉の、ちっちゃな子犬なんだからね。 館のルールで、無断で動物を飼っちゃいけない事になってんだ。今、大人たちに見付かったら、 あんな事やこんな事や、とにかく怖ーい色々な事されちゃうからね!

あの騒ぎは正面玄関の方らしいな。地元社交界の名士(セレブ)ってのが、 たくさん居る筈だよ! お隣のカニング家とか、鬼婆のダレット家とかがね!

*****

――『復活祭』当日、正午ごろ――

何だとう。オイラの花火トラブルのせいで、あの『女たらしの御曹司』が、キアランに『館への出入り禁止』通達を食らっただとう。

言っておくが、オイラは素敵な打ち上げ花火をお披露目しようとしただけで、 あの『女たらし』の『山吹色&桃色スキャンダル』を暴くなどという 『大それた、身の程知らずの陰謀』は、まるっきり入って無かったぜ!

その『山吹色&桃色スキャンダル』が、バレバレにバレて、テンプルトンの町全体を揺るがす巨大ゴシップに変身したのは、 たまたまの、当然の結果だぜ! 何で、トチ狂った血統主義の親族が勢揃いで、その御曹司の体面が傷ついたのを、 オイラのせいにするんだよ!

金髪碧眼の一家そろって、ものすげえ曲解だ。あっちこっちで間違った真相を吹聴するんじゃねーの、これ。

第一、あの『女たらし』のスキャンダルは今に始まった事じゃねえし、 復活祭の前夜のテンプルトンで、あの『女たらし』が何処かの哀れな紳士を山吹色ギャンブルの罠にかけて恐喝して、 その可愛い恋人を略奪して、桃色ヨロシクやろうとしてたって……

そりゃ、その『女たらしの御曹司』の奴の方が、全面的に悪いだろうよ、プンプン!

まあ、その恋人ってコは、オイラに感謝しても良いよ! オイラの花火で、 近所の『桃色の宿屋』が「火事だ!」って騒ぎ出したせいで、 『女たらしの御曹司』がビックリして、部屋から下着姿のまま逃げ出して、 そのコは置き去りにされたけど、純潔は守られたって話になってるからね!

その騒ぎで、『女たらし』の古い恋人に浮気がバレて、その『女たらし』と古い恋人(しかも複数人らしい)との間で、 『桃色ハーレム』の中で切った張ったの痴話喧嘩と謝罪賠償に発展した……って言われたって、オイラの責任じゃねーぜ!

――何で、オイラが、そこまで知ってるのかって?

それはね……、この話は、その場に居たカーティスの地味オジサンと派手オバサンから、こっそりと聞いたからさ!

(カーティスのオジサンの方は普通の地味なオジサンなんだけど、オバサンの方は、いつも派手なドレスなんだよなぁ。 ローズ・パークの広告塔って事なのかな、赤とかバラ模様とかのドレスが多いんだよ)

ローズ・パークの白亜の豪邸を管理してるオーナーのグリーヴ夫妻が、町内の情報通でさ。 色々聞き込んで来て、同じオーナー仲間のカーティス夫妻に、色々教えてくれるんだって。

ちなみにカーティス氏は、遠縁だけど一応、クロフォード伯爵家の傍系の親族だからね、あの場に居たんだよ。

良く分かんないところがあって、「純潔って何?」と聞いてみたけど、 カーティスのオジサンは余り詳しく教えてくれなかったよ。ともかく良い事らしいんで、「良かったね」と言っておいたぜ。 でも、カーティスのオバサンは、この話ばかりは、余り方々では喋らないだろうね。鬼婆の鬼婆に、物凄い嫌味モードで脅されてたからね。

ともあれ、地元で数ヶ月も続いてた『金と女の面倒なゴタゴタ』は、これで一件落着らしい。

揺るがぬ証拠を押さえて、ビシッと締めるところは、流石、キアランだね! リチャード伯父さんの眉間のシワも、一本ぐらいは減るかもね。

オイラの目から見ても、リチャード伯父さんは、まあそれなりに悪くない顔をしてるんだけど、 眉間のシワが多すぎるから、余計にグッタリとくたびれたような感じで、余計に老けて見えるんだよ。 白髪が増えすぎてるのは流石にしょうがないけど、せっかくのウットリするような青い目が、勿体無いぜ!

――キアランって誰かって? 結構ちょっと訳アリだけど、オイラの自慢の従兄さ!

クロフォード伯爵でもあるリチャード伯父さんの息子で、絵本に出て来る海賊のような黒髪で、ちょうど上手い具合に背が高くてさ、 オイラが今よりずっと若かった頃、あのコテージの近所の運河で、海賊ごっこ遊びに付き合ってくれた事もあるんだぜ。

冗談じゃねぇギャング抗争にぶつかって、絵本の中のクライマックス場面みたいに銃撃戦に発展したんだけど、 キアランは敵の親玉を速攻で倒して、ビシッと締めたんだよ。

その後で、何か『ギャングの密輸品がどーした』、『法的な事がどーした』とかで、 プライス判事も、カーター氏のオジサンも出張って来てたな。大勢の武装役人が残りのギャングを逮捕して、運河の穴を捜索し始めた時は、 流石に『あの中の海賊の宝物、どーすんだ?』ってビックリしたけど。

あれ以来、『運河の秘密の穴を探検して宝探しをする』っていう海賊ごっこ遊びは、ママにすっげぇ怒られて、 絶対禁止にされちゃったんだよ。でも、ママの禁止令が解けたら、キアランも、また海賊ごっこ遊びに付き合ってくれる予定なのさ!

そういえば、カーター氏のオジサンの方は、ずっと、ずーっと見かけないんだよな。 新年の挨拶の時は、ちゃんと、この館――クロフォード伯爵邸に来てたんだけどさ。

カーター氏のオジサンは、何か、すんごく難しい仕事があって、それに集中してるんだってさ。 クロフォード伯爵邸の執事や家政婦長のベル夫人からチラリと聞いたけど、この間なんか、わざわざ首都まで行って、 「シュッチョー」してたんだってさ。

首都にある公文書館だか何だかに行ってたけど、空振りに近い状態だったみたい。 どうしても、各種の記録文書の数字(データ)が合わないとか、何とか。 幸い、『何とかコート』の判事と知り合えたそうでさ、その判事が、ビミョーに実態を知ってたらしい。

その『何とかコート』の判事の急ぎ足の説明によれば、どっかの偉い公爵だか何だか、 そこの役所関係の記録とゴッチャになってるんだってさ。それで、どっかでは既に、えらい裁判沙汰に発展してるんだって。

近いうち、『何とかコート』の辺境くんだりまで、直接確認するために、「シュッチョー」しなきゃいけないらしい。 カーター氏のオジサン、近いうちに一度、リチャード伯父さんに経過報告しに来る予定だって。大人って大変だね。

*****

――『復活祭』当日、午後――

ヤッホー、パピィ!

お楽しみの『復活祭』の卵探しのついでに、 厨房から焼肉(ステーキ)を頂戴して来たぜ! ホントはディナー用の奴だけどさ、味が出来てたからね!

美味しいだろ? 此処の名人のコックが腕によりを掛けてるからね、よーく味わって食べるんだぞ。

いやー、さっきの鬼婆の爆発はすごかったな。まさに地獄の一丁目だったぜ。

あの金髪碧眼の一家そろって、『御曹司に対する、館への出入り禁止の通達』への抗議のために、 クロフォード伯爵邸の今回の『復活祭』のディナーを欠席すると宣言してくれて、 こちらとしちゃ願ったり叶ったりだぜ。今から、美味しいディナーが楽しみだよ!

何だい、パピィ? そっちの繁みの奥には卵は無い筈だぜ。 確か、突き当たりの柵の向こう側は崖になってて、崖の下には川が流れてるんだぜ。だから『行き止まり&危険』って感じでさ。

ありゃりゃ、何か、『付いて来い』って言ってるみたいだな。どういう事だろ?

――わぁお! 柵が破れてる! 何でだ!?

ふーむむ……、確かに怪しいな! パピィ、お前は賢いぞ! これはきっと、 超・邪悪な宇宙人の侵入経路なんだ! それにしても、いつ頃から破れてたんだろ? 破れた板をどけてあるし、 どう見ても、この館を侵略しようと陰謀してる宇宙人の仕業だな!

何だい、パピィ? ボロボロの板の下? ――何か、光ってるな。何だろ?

――おいおいパピィ! この光り物が目的だったのかよ! 宇宙人のオーパーツかも知れないし、ちゃんと調べようと思ったのに、 パクッと食べちゃってさ!

こら、パピィ、止まれったら止まれ! 口を開けないと、プライス判事に言い付けちゃうぞ!

あれあれ、もうこんな時間だよ! 早く戻らないと、じいじに叱られる! じいじはアレでも牧師だからね、 叱る時はガッツリ・ハードなんだぜ。

じゃあね、パピィ! お前のお屋敷には毛布で作った寝床があるから、夜になっても寒くない筈だよ!

*****

――『復活祭』当日、夕方(ディナー時)――

何だよう。大人たちが大広間に揃って、妙な雰囲気だぜ。おまけに、じいじが『しかめ面』だ。

おっと、プライス判事が大真面目な顔で、『そこに座れ』って言って来たぞ。

やぁーな雰囲気だぜ。

リチャード伯父さんとキアランとプライス判事と……えーっと、カーティス夫妻と、 ダレット家の遠縁の……名前は知らんけど、鬼婆たちが残して行った、チクリ担当の親族夫妻だな。 『復活祭』ディナーの出席者になっている地元社交界の代表と、クロフォード伯爵家の親族の面々が、勢揃いだ。

かの邪悪な金髪碧眼の一家が不在なのは良いけどさ、これって何か『吊るし上げ』みたいじゃねえ!?

おまけに、プライス判事が、大真面目な顔で続けて言う事には――

『テンプルトンの町における復活祭の前夜祭において、 被告人、マティ・トッドは、お手製の花火爆弾で、町内にある一軒のコテージを木っ端微塵にした。 そしてなおかつ、名は伏せるが、さる所の御曹司を二階の窓から――ええと、実情は伏せるが、とある恰好のまま、放り出した。 被告人は、これを認めるや否や?』

おい、ひっでーな!

あの『女たらしの御曹司』、被害者ぶって自分の『山吹色&桃色スキャンダル』を隠すために、 オイラを大々的に加害者側にしようってんだな! 前半部は事実だから、しょうが無いから認めてやるけど、 後半部は絶対に認めてやらないぜ! プンプン!

おや、よく見ると、リチャード伯父さんは手で顔を覆っているから表情は分からないけど、肩がプルプル震えてるぜ。 キアランも在らぬ方を向いて口を押さえてるし、プライス判事も口元がピクピクしてるし――

大広間の全員、何か目が笑ってるし、もしかして、吹き出し笑いを抑えてるんじゃ無いだろうな。大人って、キタナイー!

おまけに前半部を認めちゃったせいで、『打ち上げ花火の失敗』という超・恥ずかしい黒歴史を、逐一、 丁寧に大広間の全員に説明する羽目になっちゃったじゃねーか。一世一代の羞恥プレイとは、この事だぜ。

じいじは、今度こそ本気でガックリしたという顔だな。腰を悪くしてるから、あんまり心配かけたく無いんだけどさー。 発明と実験に失敗は付き物だし、しょうが無いじゃんよ。

当分の間は花火の方はガマンして、『鬼婆退散用』の、大蛇の試作品の研究を頑張る事にするかぁ。 あれなら、爆発しないもんな。

おっと、春は雨嵐が多いし、夜間の嵐に備えて、パピィの避難場所を決めておかないとな。 アントンの倉庫は頑丈なんだけど、今は屋根に大穴があるしな。何処か、手頃な場所があったかなー。

――判決の申し渡し中に、ボンヤリするな、だって? 考える事が一杯あったんだよ!

何だとう。オイラが執行猶予付きの有罪判決、受けてんの!?

世の中は不公平だぁーッ!

チックショー。『東側の端っこの柵が破れてる』っていう超・ヤバイ事実、ちゃんと説明しようと思ってたけどさ。

これじゃ、あの柵を壊した犯人も、アントンの倉庫を破壊した犯人も、オイラだって事にされちまうから、とっても言えねぇじゃねーか。 超・邪悪な宇宙人ども、必要以上に知恵が回りやがってー!!

*****

――『復活祭』の翌日――

早朝にパピィの様子を見に行ったら、やっぱり毛布が具合良かったみたいで、元気にしてた。

とりあえず安心して、今日は、大蛇の試作品を秘密の宝箱の中から引っ張り出したよ。 大蛇の形はしてるんだけど、なーんか、迫力が無いんだよな。外皮の迫力が無いからだね。

と言う訳で、さっきから『鬼婆のゴミ箱』を、こっそりと漁ってたんだけどさ。

思わぬ収穫があってビックリだぜ。

おお、このギラギラした輝き! おお、この鱗ソックリの派手な模様!

――何で『鬼婆のゴミ箱』があったのかって?

それはだね、この気持ちの良い日の午前中に、鬼婆の居るダレット家が揃って、この館、 クロフォード伯爵邸に襲来したからさ! しかも、長期滞在スタートだとさ。

朝から気分が盛り下がったぜ。昨日より良い天気だってのにさ。

流石に、やぁーな予感がするんだけどな。東棟より派手な造りになっている西棟の方に居座ってくれて、 こちらとしちゃ、ちょっとだけ、ホッとしたかなあ。

パピィにピッタリの避難場所、東の端の部屋のバルコニーになってるんだ。 雨風が上手い具合に当たらないようになってるし、傍の大樹から伸びてる大枝が、実に具合良く、バルコニーに向かって伸びてるんだぜ。 ロープをちょっと細工しただけで、枝の先からバルコニーまで、スムーズに伝って行けるんだよ!

――さて、大蛇の外皮はコレでOKとして、大蛇の目玉になるような『何か』……

やっぱり『鬼婆のゴミ箱』をもう一度、調査してみよう! 鬼婆は、口から毒の火を噴き始めた状態になるとスゲェからな、 オイラが『鬼婆のゴミ箱』に忍び込んでる事は、絶対に内緒だぜ! イェーイ!

ううむ。なかなかピッタリの目玉になりそうなキラキラした光り物は、見つからないもんだなあ。

パピィが見つけた、あのすんげぇ光り物だったら、迫力も違ったんだろうけど。 あんまりゴソゴソしてると、掃除に来るメイドにもバレちゃうから、そろそろ引き上げるかなあ。

――おっと。鬼婆の声がするぞ。だんだん近づいて来るから、このまま隠れていよう。

ふむ!? ……むむむ!?

何だとう!? 鬼婆がキアランに『魔のコンニャク』を仕掛けて、近いうち結婚する!?

絶対にダメだ!

王様や女王様が許しても、オイラが許さねえ!

このマティ様の全身全霊を挙げて、全力で邪魔してやるぜ!

イザとなったら、オイラがキアランと、男同士で結婚してやっても良いんだぜ! 噂だけど、 J&J商会の二人は男同士で結婚したらしいって話だからな、男同士でも結婚は出来るんだぞ! 年は、まぁ、離れてるけどね!

――そうと決まったら、オイラからキアランに『アンチ魔のコンニャク』を仕掛けて、防衛しなければ!

勿論、オイラは『鬼婆のゴミ箱』から無事に脱出して、キアランの部屋に駆け込んださ。

でも、結局『コンニャク』の方は、仕掛け損ねたんだ。 何故なら、その時、キアランの部屋には、キアランの寄宿学校時代の友人だという、金髪紳士のエドワードが来てたからなんだ。

エドワードは『頭の軽いチャラ男』に見えるんだけど、ハッキリ言って美形だし、身体つきの方も悪くないし、 話は何故か楽しいし(地頭が良いんだろうね)、キアランの良い結婚相手になると思うんだ。

午後いっぱいは、エドワードは鬼婆にまとわりつかれて大変だろうけど、 鬼婆は『金も力も無い無能のボンボン&チャラ男』という噂のある男は趣味じゃ無い筈だから、 多分、エドワードは、鬼婆の毒牙を逃れると思うよ。

で、まぁ、結論から言えばオイラは、ディナーの後、エドワードが寝てる部屋に忍び込んだんだ。

そしてエドワードに、「鬼婆に先回りして、キアランに『アンチ魔のコンニャク』仕掛けてみる気は無いか」――と、 大真面目に陰謀を持ち掛けては、みたんだぜ。

(じいじやリチャード伯父さんは全然信用してくんないけどさ、オイラだって、ちゃーんと、こうやって汗かいて努力して、 館内の平和に貢献してやってんだぜ! いっぱい褒めてくれよ!)

事と次第を聞いたエドワードは目を丸くしてたけど、 『キアランにちゃんと確認して、明日までには、ハッキリさせとく』と言ってくれたんで、 良い結果を期待したいところだね!

*****

――『復活祭』の翌々日、午前――

あんまりにも気持ちの良い朝なんで、ウッカリ寝過ごしたぜ。

日が昇る前に、パピィの確認に行く時には目がパッチリ覚めるんだけど、その後で二度寝すると、何でだか寝坊しちゃうんだよ。

そう言えば、今朝のパピィは、何かソワソワしてたけど、何か変わった事、あったっけ?

えーと、えーと……そうだ、アントンの倉庫の前に、真新しい足跡があったんだよな。 パピィは、アレで勘が良いから、誰にも見付からなかったんだろうけどさ(実際、館の大人たちには全然バレてないみたいだし)。

誰の足跡なのかは全く分かんないから、こちらの方は後で考えるとして――

まずはエドワードに、昨夜の『アンチ魔のコンニャク』陰謀の首尾について、状況を聞かないとね。

――あッ、ベル夫人、オハヨー。と言うか、オソヨー。 エドワード、まだ居るよね? ええッ!? 外出しちゃった!? キアランと一緒に!?

朝っぱらから、キアランとエドワードは、乗馬で外出したんだってさ。 まあ、改めて考えてみると、なかなか良い展開かもね!? 後で、シッカリ『コンニャク』仕掛けたかどうか、確認してやろうっと。

おや、大広間からプライス判事とリチャード伯父さんが出て来たぞ。馬車の準備について執事と話し合ってるし、 二人ともシルクハットを抱えているし、これから、どっか行くんだね。

――へぇ、キアランとエドワードは最初は馬車で行く予定だったんで、軽装馬車の準備が、ほぼ出来上がってるんだってさ。 まあ、ひっさびさに、こんな良い天気だもんね。急に乗馬に切り替えたくなるのも、分かるよ。 キアランは乗馬が好きな方だし、エドワードも何か、そんな感じだからね。

リチャード伯父さんとプライス判事は、そんなに乗り物にこだわらない方だから、 軽装馬車で行く事にしたみたい。気を付けてねー。

*****

此処で『花の影を慕いて』第一章、「2.春の事件」に接続します。

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