深森の帝國§総目次 §物語ノ本流 〉第二部 第六章(頁.34-35)

第二部 第六章 頁.34-35.隠蔽される事実を巡って…昼下がりの対話(承前)

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鏡は、亮に義眼を返した。亮は義眼を再びはめ込みながらも、 「ハイタカの野郎、制作料金は立替にしといたから、後で払え、だとさ」と、ブツクサと呟いた。 目をハメるとは面倒くせぇと言いながらも、何処か楽しげな亮である。 確かに、本物の目と変わらぬ程の見事な細工である――義眼をはめ込んでいるという事すら忘れる程の自然な使用感であり、 亮も内心、満足していると言う事なのであろう。

とは言え、これ程の精密な細工となると、やはり気になるのは料金である。 鏡は目をパチクリさせ、「お幾ら?」と確かめた。亮は、 「為替決済で、理由を賭博として処理したそうだが…」と説明し、その驚異的な金額を告げた (実際、目玉が飛び出るような価格である)。

ハイタカは、既に亮を直属の部下として受け入れており、 この義眼の話は早々から決まっていたに違いないのであった――料金を払えと言いながらも、 その実、その料金は、亮の働きで返してもらうと言う取り決めが成されたのであろう事は、容易に推測できた。

そして鏡は、ふと気付くところがあり、改めて亮を見直した。 「そういえば、此処、東の鬼姫、居るんだよね…亮も入っても大丈夫だったのかな?」 ――果たして亮は、何とも言えない奇妙な顔つきをして沈黙した。

亮は首を振り振り、「一応、強烈な洗礼は受けたがな」と、圧倒された風で呟いた。 カモさん一行と相前後して、夕星御前との面通しがあったのである。「あのジジイは、 全く気に触る曲者だよ…あの凄まじい合言葉を食らったハイタカの顔、見せてやりたいぜ…」

鏡は苦笑するほか無い。「カモさんも、同じような事、言ってたよ…」

話題に一区切り付き、亮は改めて生真面目な顔をして、鏡を見やった。 「話がズレたな…鏡はさっき、何を考え込んでいたんだよ?」

その亮の質問に答えて、鏡は、今まで思案していた事を縷々、説明したのであった。

――やがて、内容を了解し、「そういう考え事と言う訳か」と応じる亮である。「勘だが、 聖麻王室は、あの国宝を探そうとはしないね」

鏡は不思議な思いにとらわれて、改めて亮を見直した。 此処に居るのは、戈郎か?それとも、亮か?――鏡は疑問と興味の赴くままに、 「二つ目の名前を持つって、どんな気持ちがするんだろ?」と呟いた。亮の答えは、 実にアッサリとした物であった。「特には無いぜ、一つ目の名前は死んでるんだ」

すぐに亮は、それだけでは説明不足だと気付いたのか、思案顔をしながらも言葉を続けた。 「ハイタカを見てると、二つ目の名前を持ったからって、変わる物じゃ無いらしいな…その名前に応じて、 周囲との関わりが変化するだけだ――関わりってか、因縁がな」

鏡は、亮の述懐に耳を傾けていた。

亮の述懐は、珍しく長く続いた。「その名前による業が続く限りは…因縁は、記憶に及ぶ…」 亮は其処で一息入れると、 「その名が死ねば、それに関わる記憶も、また次第に時間の流れの中で風化して行く…」 と続けた。「名前ってのは物理的実体を持ってないし、 その実体も、これと言うような痕跡を残せねえからな――言ってみれば、それだけだ」

考えてみれば、常陸宮が集めた超古代のコレクションも、そんな物である。

鏡は暫し考えると、「諸行無常だね」と呟いた。 「国家の物語も人間の存在も、風の前の塵に同じって言う…」


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