深森の帝國§総目次 §物語ノ本流 〉第二部 第六章(頁.28-29)

第二部 第六章 頁.28-29.別荘の朝のひととき

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常陸宮は気を取り直すと、クルリと無欲庵の方を振り向いた。 「時に無欲よ、夕星は妙齢の美女であるし、都に来て既に1ヶ月程になる…恋歌の往復とかな、 色っぽい話があっても良い筈だ」 ――常陸宮は常陸宮なりに、夕星の将来を案じてはいたのである。

無欲庵は苦笑いをし、「それだけは絶望下さいな」と応じた。 「東の鬼姫は、大の男嫌い…その上、あの薙刀の見事な腕前、下心を持って近付いたら殺されます」

そして無欲庵は、物分かりの悪い人を説得するかのように、夕星の過去を説明したのであった。 「常陸疑獄事件で夕星御前が人質に取られた時にです、ハイタカさんが救出作戦立てて精鋭部隊と共に潜入しましたが、 脱出のついでに夕星御前も馬上で薙刀を手に取り、その精鋭部隊と夕星御前とで、あの包囲網を突破して、 敵陣を一気に壊滅させてるんです」

「返り血を全身に浴びたその様は、まさしく鬼姫」と続けながら、 無欲庵は望遠鏡を鬼の角に見立てて、禿げ上がった頭に立てて見せたのであった。 毎度の事ながら、常陸宮は天をも仰ぐ気持ちである。 「敵陣蹂躙だの、流血の戦場だの、恐ろしげな修飾で賞賛するなッ! 朝ノ君や明日香姫のような評判をば、期待してたんだ、私は!」

2人が掛け合い漫才をしている間に、夕星と鏡が、庭園の入り口に姿を現した。 無欲庵が即座に気付き、「おっと、お2人がお戻りのようで…」と、常陸宮に注意を促した。

常陸宮は面白そうな顔をしつつ、その方向を見やった。 「では満を持して、点と線の冒険談を細かく聞き出してやろうじゃ無いか」と、呟く常陸宮である。 妖異事件の報告書に彩られた旅路の中で、実際は何が進行していたのか? 常陸宮は、好奇心で一杯だったのである。 無欲庵は訳知り顔で微笑み、「騒ぐんでしょ、怪談好きの血」などと突っ込んだのであった。

そして程無くして、別荘の中の一室で、旅の土産話が交わされたのであった。

順を追った内容になったため、その日は、鈴鹿峠の一件が話題になったのである。 詳細を聞き出した常陸宮は首を傾げ、 「暗殺者・戈郎に呪物を持たせた、上層部の黒幕の正体は不明か…」と呟いた。 無欲庵は、その陽気そうな見掛けに寄らず、疑問点を明確にするのが上手であった。 「その問題の上層部の黒幕って、聖麻の内部事情にえらく詳しい人みたいですねえ」と無欲庵。

常陸宮は、鏡を暗殺しようとした謎の注文者の存在がひどく気になり出している様子である。 「聖麻王とは面識があるが、彼はいささか流されやすい…ドラ息子もな、 恐龍団で暴走不良など気取ってるが、彼らに、暗殺者を放つ程の気概は、確実に無い…」

無欲庵はおもむろに一服すると、「大尊教は目下、ヨシヤ大教主の痴呆でバラバラですし、 有力な呪術師は監視済みです…未知の黒幕って事になりますかね」と指摘した。 常陸宮は、その指摘に同意している。 「甲斐国の黄金カルト…金剛光連衆が、やはり怪しい…まさにその頃に上洛して来た…、 露払いが居ない筈が無いしな…」


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