深森の帝國§総目次 §物語ノ本流 〉第二部 第六章(頁.18-19)

第二部 第六章 頁.18-19.考察…神話の改造、或いは神々の合体変形(承前)

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不意に沈黙に落ちた鏡をカモさんは見やり、「何か、考えてるようだね」と発言を促した。

鏡は暫し戸惑っていたが、やがて、「物語には意味がある?」と呟いた。 それは恐ろしく省略された質問であったが、カモさんは、鏡の言わんとするところを正確に読み取っていた。 民族に伝わる神話物語と、その民族が"神"と仰ぐ、"存在"との関係―― 「大有りだ、それはな」と応じるカモさんである。

「名前にも、意味があるのですか?」と鏡は続けた。 カモさんは再び、うなづいた。「そうだ…例えば、神名は神の歴史だな」と説明を加える。 それを受けて、鏡の頭は、再び回転し始めた。

文字と呪術の帝国――歴史。統一国家は、歴史を再編集し、神を書き換える。 まるで、錬金術が、卑金属と黄金を交換するように。 貨幣洗浄を通じて、その価値を奪取し、我が手元の価値に付け替えるように――

それは全て、王権の理想のため――支配権の正当性を支える、神話物語を手に入れんがため。 または、理想とする黄金時代の捏造。それが、神話の、もう一つの姿なのだ。

王権と敷星は、切っても切れぬ深い関係だと言う――そこで、鏡はハッとした。 敷星とは、土地を敷く星。即ち、まさに、支配する力では無いか。土地の名にも、支配は及ぼう―― 例えば、ミケツ…!

欠き眉と喜美。あの傑出した呪術師であり戦士でもある彼らが、何故、他人の指示に従ってまで、 伊勢に留まっていたのか。もし、伊勢暴動が最後まで成功していたとしたら…それは、 文字呪術において、伊勢と言う地名を踏みにじる行為では無いのか。

鏡は暫し凍り付いたようになっていたが、やがて、口を開いた。「欠き眉の豹は、 伊勢なる地名を呪術的に滅ぼし…ミケツ名を豹の神名として書き換えて…、 この花綵列島を構成する歴史神話を…神々の帝国を――支配しようと考えているのでしょうか」

それは思いつくままに繰り出した、一部はあやふやな部分もある内容であったが、 その恐るべき内容は、カモさんをして動揺させる程の物であった。 まさに盲点を突かれた、と言った様子で、カモさんは深刻な顔をして考え込み始めたのである。

暫しの静寂。そして、カモさんと鏡の後ろに下がっていた御簾が突然動き、常陸宮の姿を現した。 「かつて、我々の先祖が天下統一した時にやった方法と同じか」と指摘する常陸宮である。

常陸宮は、驚くばかりの2人を改めて眺めやると、 「こりゃ相当、新鮮な視点を持つ若者だな」とカモさんに語り掛けた。 「おい、カモ殿よ…その考え方は在りだと思うぞ」


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