深森の帝國§総目次 §物語ノ本流 〉第二部 第六章(頁.16-17)

第二部 第六章 頁.16-17.考察…神話の改造、或いは神々の合体変形(承前)

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――人は、見たい物を見る。全ては、選択だ。 畢竟、《正統》とは、人が見たいと思う物語の群れなのだ。 異端とされる物語と、その内容を彩る神は、歴史から追放される。 神話物語において《異伝》と化すのは、まだ運が良い方で、殆どは忘れられ、打ち捨てられる。 深い忘却の彼方の、その影を見るのは、伝承を探り当てる審神者(サニワ)のみなのだ――

カモさんは、そのように縷々語ったのであった。 「呪術は、意図の結晶だ、と前に説明したな…その本質は、神話物語で出来ている…物語そのものが、 この現世から忘却されて、消滅した場合は…」

カモさんの言葉は、そこで途切れ、鏡は、「その呪術は、影響力を失う事になる?」と続けた。 カモさんは、深くうなづいた。 「土地を束縛する敷星の力が消え、王の権威も、また解体するんだ…、 五百津昴の連環…プレアデスの鎖は、解かれて行く…星座を成す星々が意味のある結合を失い、 バラバラになるように…まつろう呪術師も神も、無力な残骸となってさすらう…」

カモさんの考察と眼差しは、欠き眉の心理にも向けられていた。 「辺境を漂う神々の残骸をツギハギし、 まるで星々の群れを狩り集め、鎖で結び、星座を再構成するかの如く…恐らくは、 新しく強大なる豹の神を生じて、よみがえる…そういう意図は、良く理解できる」

カモさんは、「理解は出来るが…」と言いながら、深い溜息を付いた。 「近いうち、いずれ生じる、そのミケツ名の豹…慈悲深い神とは言えんだろうな」

カモさんは、おもむろに顔を上げると、遠い夜空の果てを見透かすかのような深い眼差しをした。 「思考は言語によって構成される…我々の記憶…歴史とは、実に、文字と呪術の帝国だ…」

神話の再構成。神々の改造――鏡は、思索を広げ始めた。豹を彩る神話の到来は、既に起きたのである。 恐るべき豹の神…その守護星は、星を狩り、そしてくくるのだ。数多の妖霊星を。 恐らくは、日ノ丸という大禍ツ霊をすら飲み込もうとしている物語――その完成を止める事は、可能なのか?

鏡の脳裏では、過去の記憶がシャッフルを始めていた。

――さすら王って、放浪と浄化と忘却の神さまなんですって…放浪と浄化は、 裏と表なのかも知れない――これは、瀬都の言葉だ。

――《それ》を聞いたのは、ずっと昔の事で、良く覚えていないんです…《それ》は、 物語と言うには、余りにも断片的な物で――でも、あれは、ずっと祈りに近いものだった――これは、 いつだったか、イオの言葉である。


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