深森の帝國§総目次 §物語ノ本流 〉第二部 第六章(頁.2-3)

第二部 第六章 頁.2-3.キツネと仁義を切り、奇天烈の宮の別荘に至る

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程なくして、カモさん一行の前に、大柄なキツネが現れた。 キツネは特にハイネを気にしているようである。勘の良い良基がその様子に気付き、 「ハイネに用事があるようだね?」と確かめる。

ハイネは、先刻ご承知と言った様子で、コクコクとうなづいていた。「ホニャラニャ、 お控えなすって、仁義を切らせて頂ニャすね」などとのたまっている。 そしてハイネは、手際良くネコマタの正体をさらすと、丁重に片手を差し出しつつ、腰を下ろしたのであった。 「ニャー、オイラ、百年物の猫又ハイネと申し、目下カモネギの管理下に御座い、 手前のショバを騒がす予定など御座らニャイ」

謎のキツネはジッとしていたが、やがて尻尾を振り振り、足早に駆け去って行った。 おそらく、大社におわす偉大なる存在にでも報告するのであろう。鏡はひたすら唖然とする他無かった。 やっとの事で、「ちゃんと通じてるんですか?あれで?」と呟く鏡である。

「通じたらしいな」と合いの手を入れるカモさん。ハイネを注目しつつ、なおも怪訝そうな面々。 ハイネは、再び小僧に化け直すと、赤面してプリプリと怒りながらも、「失敬ニャ…!」と言いつのった。 「神々と妖怪は、人間同士より理性的に話し合えますニャ」

カモさんは感心したように、「ヨシヤ大教主がこの真実を知ったら、卒倒するだろうな」と呟いた。 「持論以外、認めない人だからねえ」と鹿深氏も同意である。そうしているうちにも、丸頭氏の案内で、 カモさん一行は、大社の門前町の界隈にある、瀟洒な集落に到着した。

明らかに上流貴族が住まう界隈らしく、距離を置いて似たような邸宅があり、 丸頭氏は暫しキョロキョロしていたようだが、やがて見当が付いたのか、 「あッ、こちらです、常陸宮の邸宅は」と指し示した。

邸宅の門をくぐり、庭木の多い庭園に入るや否や、若者たちは驚きの余り口が塞がらない状態になった。

見た事も無い奇妙奇天烈な置物(しかも相当でかい)が、次々に庭園に出現したのである!

ハリボテの石で構成したらしい、ピラミッド物体。謎のレリーフが彫り込まれた円柱。 曲がりくねった謎の象徴的な棒の置物。そして、数々の、名前も種類も分からない外国の動物たちの奇妙な置物…

「一体、何?この巨大な物体…」と呟きながらも、若者たちは、 庭園を辿る一定の隙間に沿って興味深く並べられた不思議な物体の群れから、目が離せない。 鹿深氏が呆れたような調子で、「実に実に、奇天烈の宮だろ?」と同意を促した。

そして、「今の研究対象が穏やかな物で、実に幸運じゃ無いかね」などと鹿深氏は続けた。 「ずっと前、『源氏』の同人のエロ文化を研究されてた頃は、大変だったんだぞ…あちこちに、 アラレも無い男色を描いた色紙や屏風が立てられてな、 皇族の体面に関わるとか何とか、国家問題にも発展したんだからな」

カモさんも、どう反応して良いやら、といったような風で、苦笑いするのみである。

常陸宮とは一体、どういう人物なのか――そんな事を思う間も無く、 不意に、カモさんの笠が薙ぎ払われた。思わず「どわ!」などと叫ぶカモさんであった。

不意に出現した通せんぼは、薙刀を持って威嚇していた―― 「怪しき風体の者、合言葉を述べよ!応答なくして、内に入る事ならぬ!」と呼ばわる。 驚く事に、その声は、明らかに美女の声と見える物であった。


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