深森の帝國§総目次 §物語ノ本流 〉第一部 第一章(頁.10-11)

第一部 第一章 頁.10-11.夕暮れの旅立ち…夕市の立つ神社にて

頁.1頁.2-3頁.4-5頁.6-7頁.8-9 〉頁.10-11 〉頁.12-13頁.14-15頁.16-17頁.18-19頁.20-21頁.22-23頁.24-25頁.26-27頁.28目次に戻る

夕市の立つ神社へ向かうカモさんと鏡。その姿がシルエットになって浮かび上がる。

夕市に到着する…殆ど露天市場である。かごに野菜を入れて売りに来た女、 流しの人々、神社への参拝人の群れ、そしてそこかしこに警備杖を携えた覆面姿の神人(ジニン)が見える。 市場に集まってきた雑踏の向こう側に神社の鳥居があり、その奥に登り階段。

そこで、カモさんは何やら買い物の用事を思い出し、鳥居の前で二人は一旦、別行動になった。

神社に興味を持った鏡は、鳥居の奥の階段を上り始める。…やがて階段の中ほどで、鏡は不意に呼び止められた。 振り返ると、そこには上等な着物をまとった烏帽子姿の若者が立っている…花洛に居る筈の知人、 (上流貴族の御曹司)ユカルであった。

ユカルも、鏡が土山宿に居るとは思わなかった様子である。じろじろと眺めつつ、いかにも驚いた風だ。 「花洛から遠出するには本格的な旅姿じゃ無いか…へえ、 髪切っちゃって」鏡は、いささか決まり悪げに笠に手をやった。「…徒歩だし、たぶん鈴鹿峠を越える事になるから…」

ユカルは思わず鈴鹿山脈の方向を眺めやった。衝立か何かのように、国境を成す山々を。 「…鈴鹿を?…(さっきの)地震に驚いたばかりなのに…今度はお前か!」

やがて階段頂上の境内前に到着である。ユカルは「いかにも呆れた」といった様子で、 鏡を説得し始めた。「悪い事は言わない…此処で花洛に引き返した方が絶対安全だよ! ヨシヤ大教主も説教している…東北辺境に至っては二世紀の布教も空しく、 今もなお未開の暗黒と原始邪教が栄えている…奥地の山々は、 異形(アヤカシ)の者どもの蠢く魔境!」と、最後は吐き捨てるように言いつのった。

鏡は、動揺する…その背後に、夕日を受けて淡い金色に浮かび上がる社殿。 その屋根は優雅に反り返り、翼を広げた鳥の如く…翼なす屋根の下には、深い影。 笠の影に顔を隠して、長い沈黙を続ける鏡…しかし、やがて鏡は、穏やかながら、「行く」と、きっぱり宣言。 ユカルは頬杖をつきながらも、その表情は不明瞭なものを含んでいた…


§総目次§
物語ノ岸辺物語ノ本流物語ノ時空物語ノ拾遺